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 案の定、編集部に着くなり目敏い編集長が僕たちに気づいた。
「お、同伴出勤か? 珍しいな」
 僕は愛想笑を浮かべた。
「いや、そこでばったり一緒になっただけです」
 片倉の視線が痛かった。きっと僕のことを小心者と嘲笑っているに違いない。でも、今までこうして他人の目を欺きながら、自分の性癖を隠し続けてきた僕の習性は、そう簡単には変えられない。
「それは嘘だね。片倉はスーツもシャツもネクタイも昨日とまったく一緒じゃないか」
 編集長のいやな突っ込みに片倉は平然と答えた。
「ちゃんと洗濯はしてありますよ」
 いや、反論すべきはそこじゃないから……。
 僕は頭を抱えたくなった。
「なんで隠そうとするの? 怪しいなぁ」
 怪しいのはあなたのその眼鏡です! と内心でやり返しつつ、僕は苦しい言い訳をする。
「徹夜でゲームをしてたんです。僕が新しいソフトを買ったので……」
「片倉が藤木の部屋に泊まったのか。そういうときって朝飯は藤木が作るの?」
 片倉が間髪入れずに答える。
「俺が作るに決まってるでしょう。こいつは外食ばっかりで、自炊なんてほとんどしないんですから」
「へえ、片倉は料理するのか」
 感心する編集長に気をよくしたのか、片倉は余計なことまでしゃべり出す。
「洗濯もアイロンかけもやりますよ。それからゴミ出しも」
「なんだか片倉は藤木の奥さんみたいだな」
 肝を冷やしながら会話の成り行きを見守っていると、片倉はにやりと意味深に笑った。
「ええ、朝はね」
 お願いだからそこはスルーしてください、編集長!
 僕の心の叫びも虚しく、編集長は怪訝そうな顔で訊ねた。
「どういうこと? じゃあ、夜は?」
 片倉が口を開くよりも早く僕が回答する。
「夜の食事は僕が作るんです。自炊の練習を兼ねて」
 有難いことに、編集長は僕の言葉に納得したようだった。
「いいなぁ。1泊2食つき。今度俺も藤木んとこに泊まりに行っていいか?」
「「だめです!」」
 僕と片倉の声がきれいに重なった。
 
 昼時になると、僕と片倉はいつもの蕎麦屋に向かった。
 たまには違うものを食べようとメニューを開きながら、片倉は話し始めた。
「藤木、近いうちに中川さんのところに行くようなこと言ってただろ? 今度の金曜、俺も彦坂先生のところに打ち合わせに行くんだ。お前も金曜日にして一緒に行こう」
「え、一緒に?」
 驚いたものの、よく考えたら行き先はほぼ同じなのだから、一緒に行ってもおかしくはないのかもしれない。
「そうだ。それで打ち合わせが終わったら甲子温泉で1泊しないか?」
 再び驚いた。それはおかしいだろう。いくらなんでも男ふたりで温泉だなんて。
「なんでそうなるの? 普通に帰ってくればいいじゃないか。それに、たしか片倉は温泉には興味ないって言ってなかった?」
「お前と一緒なら温泉に浸かるのもいいかと思ったんだ。それに……」
 片倉が意味ありげに僕を見つめる。
「浴衣姿のお前もいいだろうなと……イテッ」
 僕はテーブルの下で片倉の脛を蹴った。
「こういうところでそんな話しないでよ」
 僕が顔を近づけて声を潜めると、あろうことか片倉はメニューで顔を隠して、一瞬のうちに僕の唇を掠めとった。
 ガタンッ。
 勢いよく身を引いた僕は椅子ごと後ろに倒れそうになり、かろうじて堪えた。
 幸い、客はみんなテレビのスポーツ中継に夢中だ。僕たちを気にしている者はひとりもいない。
 僕が身なりを整えて椅子に座り直すと、片倉は口端を片方だけ持ち上げて笑った。そんな表情すらもかっこいいから腹が立つ。
「場所をわきまえてくれよ」
 注意したところで、片倉は聞く耳を持たない。なに食わぬ顔で店員を呼び、さっさと注文を済ませる。僕も慌てて注文した。
 店員が厨房に下がると、片倉は大胆に言い放った。
「俺のものにいつなにをしようと俺の勝手だ」
 その言葉に抗うことができない自分が悔しい。それどころか、幸せすぎて恐い。
 付き合い始めて気づいたことだが、片倉はその外見に似合わず世話焼き体質らしく、なにかにつけて僕をかまう。さらに意外なことに人一倍独占欲が強く、それを隠そうともしない。片想いのうちはよかったが、付き合うとなるとなかなか厄介な男だ。手綱を握るつもりが、いつのまにか握られているような気がしなくもないが、惚れた弱みだ。仕方ない。
 けれど、片倉はこんな僕の一体どこを好きになったというのだろう。
 いや、片倉はあくまで「好きらしい」と言っただけで、好きだと明言したわけではない。気持ちが通じ合わないまま、身体の関係ばかりが先行してしまった。僕がこの関係に片倉を巻き込んでしまったようなものだけど、やっぱりこのままでは苦しい。
 もういい加減、片倉の本当の気持ちが知りたい。この甘い苦しみから僕を解放してほしい。
 僕は祈るような気持ちで口を開いた。
「そろそろおまえの本当の気持ちを教えてほしい。もう『好きらしい』という言葉だけでこの関係を続けていくのは正直辛い」
 僕が勇気を振り絞って真剣に話をしているのに、片倉はぽかんとした顔で僕を見ている。
「は? お前、なにを言ってるんだ? そんなの好きに決まってるだろう」
 えっ、決まってるだろうって……。
「僕そんなこと一度も聞いてないよ。一体いつから……?」
「わりと最初から。初めてお前に手を出したとき、俺は相当覚悟を固めたんだがな」
「嘘……」
「信じられないというなら、信じさせてやる。だから一緒に温泉に泊まろう」
 その瞬間、僕の頭の中はあらぬ妄想でいっぱいになった。
 これは恥ずかしい。絶対に恥ずかしい。
 火照った顔を隠すために、俯き加減で眼鏡に手をやる。けれど片倉にはバレていた。
「もしかして俺、すごく期待されてないか?」
「べ、べつに……」
 思わず吃ってしまった。
「それじゃあ、俺はがんばっていいのかどうかわからないな」
 片倉が僕を見つめる。その嗜虐的な色を帯びた瞳に、僕はとうとう観念した。
「おまえを……信じたい」
 片倉は勝ち誇ったように薄く笑った。
「よし、うんと泣かせてやるから覚悟しろよ」
 もうどうにでもしてくれ。
 僕はこくんと頷いた。





END




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この人たちは蕎麦屋でなんつー会話をしてるんでしょう。
でも、楽しかったです。

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■□ INFORMATION

【8/12】
誠に勝手ながら当ブログを
活動休止とさせていただきます。

【5/16】
すいません。
現在、潜伏中です。

【5/7】
突然ですが模様替えをしました。
慣れないうちはなにかとご不便を
おかけするかもしれませんが、
何卒ご容赦くださいませ。

【4/23】
「お久しぶりです」の方も
「はじめまして」の方も
こんな隅っこブログにお越しいただき
どうもありがとうございます。
ご挨拶が遅れてすみません…。
ぼちぼち更新してまいりますので
これからもよろしくお願いいたします。


【1/3】
あけましておめでとうございます。
昨年中はこんなぐだぐだなサイトを
見捨てずに応援してくださり
本当にありがとうございました。
今年もお付き合いいただけると
うれしいです♪
どうぞよろしくお願いいたします。


【11/3】
長らく放置してすいません><
こんな状況でも訪問してくださる方
本当にどうもありがとうございます!
ひとことでも感想などいただけると
朔田が泣いてよろこびます~。


【6/14】
ご無沙汰してます。本文の文字を
ちょっぴり大きくしてみました。
少しは読みやすくなったかな?


【4/21】
現在、ちょーゆるゆる更新中です。
忘れた頃になにかがアップされてる
…かも……?


【1/19】
「浅葱色の少年」は完結しました。
応援してくださったみなさま、
どうもありがとうございました!


【1/15】
新作「浅葱色の少年」を更新中です。
かすかにBLが薫るお伽噺みたいな?
楽しんでいただければ幸いです♪


【1/15】
趣味でやっていた〈ひとり光画部〉は
閉鎖しました。ご愛顧ありがとうござ
いました。


【1/15】
「石榴館」はすてき絵師・東風さんと
一緒に遊んでる吸血鬼シリーズです。
          詳しくはこちら→
石榴館 作品紹介

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管理人:朔田圭子(さくた けいこ)

さくたはめがねがだいすきだよ。それからかえるとかすなふきんとかみどりいろのものがすきみたい。 めーるふぉーむだよ♪ さくたがなんかゆってるww
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